第20章 触れる理由
翌日―――、
杏(…………。)
そうなる事は分かっていたが、菫は着物姿ではなく隊服姿であった。
ただ、就寝時の挨拶で浴衣姿を見ていた為に、どこかで着物姿を想像していたのかも知れない。
口角だけを上げた杏寿郎に見つめられると、それが笑顔ではない事を学んでいた菫が首を傾げる。
(どうされたのだろう。確かに一昨日は頭巾を取って欲しそうでいらしたのに…。思ったよりお屋敷が明るくならなかったのかしら。)
そう思うと菫は『失礼します。』と断ってから髪紐を解き、高い位置で結い直した。
「……如何でしょう。明るくなりましたでしょうか。」
屋敷の暗い明るいの話は菫が憶測で思い込んだ話であった為、 "明るくなった" とはどういう意味なのか正確には分からなかった。
しかし、杏寿郎は優しい笑みを浮かべた。
杏「うむ。…とても明るくなった。」
杏寿郎がそう言うと縁側に立つ菫の瞳がパッと輝く。
杏寿郎はそんな好ましくも望んでいない瞳から視線を外し、木刀を握り直した。
杏「では風呂の準備が出来たらまた声を掛けてくれ!!」
「はい。畏まりました。」
そうして菫が去った後も杏寿郎はひたすら頭の中を空にして木刀を振るい続けたのだった。