第6章 三ツ谷隆くんに愛されたい②
あのアバンチュール事件から1ヶ月近くが過ぎた。
私は何事もなかったように、日々働いている。
コピーを終えた書類を会議室に運ぶ。
途中、給湯室から女性社員の話し声が聞こえてきた。
「ねえ!ねえ!三ツ谷さん見た!?」
「見た!見た!」
「超イケメンッ!」
「ヤバイよねー!」
ん?
三ツ谷さん?
否応なしに、私の耳は反応する。
“三ツ谷”なんて珍しい苗字じゃないのに。
思わず聞き耳を立ててしまう。
「ウチみたいな会社の企画に加わってくれるなんて、ほんとラッキーだよね?」
「分かるー!」
「めっちゃカッコイイし、目の保養だよねー!」
そういえば、私が会った三ツ谷さんも素敵だったな。
あの夜のことを思い出す。
アホらしい。
もう二度と会うことなんてないのに。
仕事に戻ろう。
止めていた足を進ませようとした時だった。
「名前先輩っ!待ってぇっ!」
後輩の男の子が廊下を走ってくる。
私を呼び止める声は、酷く焦っていた。