第10章 2人きりのバースデーパーティー
ふいに、結がオレの胸に頭をもたせかけてきた。
少し俯いているから、その表情はわからない。
結、と呼びかけようとしたとき、結が小さな声で話し始めた。
「遊郭にいたときにな、今日みたいな消えそうなお月様を見るたびに、わたしみたいやなって思ってた。
わたしなんていついなくなっても誰も困らへん、消えてなくなりたいって……」
ゆっくりと結が空を見上げた。
憂いを帯びたその視線の先には、今にも消え入りそうな細い三日月が浮かんでいた。
初めて会ったときの結のすべて諦めたような眼差しを思い出して、少しでも安らいでほしくて、オレは思わず小さい体を腕で包み込んだ。
すると、ゆっくりとこちらに体ごと向いた結が、オレを見上げ、大丈夫というように少し微笑んだ。
「でもそんなときにカカシと会ってん。
それで、カカシはわたしの光になってくれた。
毎日、カカシを待つ時間も楽しくて、生きてていいよ、そのままでいいよっていつも、そう思わせてくれた。
やから、カカシは、わたしの恩人っ、やねん……。
っあれ?なんで、涙出るんやろ。
おかしいな……」
結は恥ずかしそうに少し笑って、一粒、また一粒と溢れてくる涙をゴシゴシと乱暴に手で拭った。
「結、大丈夫……?」
心配になりその手をとり顔を覗きこむと、結が少し赤くなってしまった目を細めて笑った。
「ごめん、ちゃうねん大丈夫。
なんか、胸がいっぱいなって、涙出ちゃっただけ。
今日はこれをちゃんと言おうと、ずっと決めてたから、最後まで言わせて?」
そう言って胸に手を当てると、結は自分を落ち着かせるためにひとつ深呼吸をした。
そしてオレをもう一度見つめた。
その目は一点の曇りもなくキラキラと光っていて、すごく綺麗だと思った。
「カカシ、この世に生まれてきてくれて、わたしのこと好きって言ってくれて、ほんまにありがとう。
お誕生日おめでとう。
大好き……」
目を細めて照れ笑いする結はすごく可愛くて、オレは思わず結を掻き抱いた。
「……こんな最高の誕生日は、人生初めて。
結、ありがと……」
「ふふ、カカシ、苦しい」
「もうちょっとだけ……」
「……うん」