第8章 * 愛おしい君
冷たいお茶で喉を潤した後、商店街を歩きながら必要なものをどんどん買っていく。
すぐに両手一杯になってしまい、疲れたし、少し早いがお昼を食べに、近くのうどん屋に入る。
「いっぱい買ったね」
「うん!店に行って買うなんて初めてやから、楽しかった」
「そっか」
結は買い物の間中、今までにないくらいはしゃいでた。大人っぽい見た目でも、中身は20歳の普通の女の子なんだと改めて気づく。これからここで、今までできなかった普通の女の子の生活を目一杯楽しんでほしい、なんて父親みたいな気持ちになってしまった。
お腹を満たしたあと、また少し買い物のためブラブラ歩いていると、丘の上にある最近できた小洒落たレストランの庭で、結婚式が行われているのが見えた。
見てみたいと結が言うので、外だし少しならいいかと、丘を上がり邪魔にならない場所で結婚式を見る。結は目をまんまるにして、幸せそうな新郎新婦に釘付けになっていた。丘を降りた後も、ぽーっと熱に浮かされたような顔で、何か考え込んでいる。
「やっぱり結婚式って憧れるもの?」
上の空で歩く結に話しかけると、ハッとこちらを向いて、申し訳なさそうに笑う。
「あ、ごめん!考えごとしちゃってた。
うん。やっぱ憧れる!今日初めてウェディングドレス見たし!
どうやって着るんやろう、とか……。あと、お化粧とか髪型とかお花とかも気になっちゃって」
結は、遊女のときから髪型やお化粧はいつも違うし、髪飾りや着物の色合わせも、そういうことに興味がないオレでもわかるくらいオシャレだった。だから、自分たちの結婚式のときも、結には好きなようにやらしてやりたいと思う。
「結の花嫁姿、楽しみだな……」
「カカシの新郎姿も!口布どうする??」
悪戯っぽく笑う結は死ぬほど可愛くて、もうオレだけの結なんだと思うと堪らなかった。
他に誰もいないことを確認してから口布をずらし、その可愛い唇に口付ける。
「本番は結がずらして」
おでこをつけたまま囁くと、顔を赤らめた結が「結婚式も付けるんや」と苦笑した。