第8章 * 愛おしい君
「お邪魔、します……」
結が緊張した顔で、オレの家の門をくぐる。
「ふふ、今日からは結の家でもあるんだから、"ただいま"でいいんじゃない?」
「そっか……」
結は家を見上げて、感慨深そうにそう呟いた。
オレの家は戦後、実家のあったあたりに一人で住め、管理もしやすいように小さな平家を建ててもらった。キッチンからダイニングを兼用したリビングがひと空間になった部屋と、8畳の寝室、玄関脇の小さな収納部屋、風呂、トイレのシンプルな家だ。リビングからは小さいが、日当たりの良い庭に出ることができる。
「わぁ……」
部屋に入った結が、小さな歓声をあげる。
木の梁を剥き出しにしたデザインのこの家は、前のアパートよりは温かみがあるが、女の子が住むにはやはり殺風景だ。
「ほとんど寝に帰るだけだから、何もないでしょ?
これから結がしたいように、物増やしてってね」
「この部屋はこの部屋で、カカシの部屋って感じがして好き」
結がニコリとオレに笑いかける。
今日の結は、きっと身請けの為に作ったのだろう、深い赤の着物を身につけ、髪も綺麗に結い上げていて、いつも以上に綺麗だ。その上そんな可愛い顔をされたら、今にも襲ってしまいたくなる。
オレも相当浮かれているな……。
でも、今日はやることがてんこ盛りだ。
明日からはまた仕事だから、結の服や日用品、そのほかにもここで生活する必要最低限のものは今日揃えたい。里の案内もザックリとでもしたいし……。
とりあえず今はーーー
「結、この後少し休憩したら、お昼食べがてら日用品とか買いに行こう。
着物じゃ大変だし、とりあえずこれに着替えて」
寝室のクローゼットに収まった何着かの服。女物の服はオレには分からないから、容姿を伝え、サクラに見繕ってもらった。
結は即決で黄色いシンプルなワンピースを選んだ。
いつも会う時は着物だから結の洋装は初めてで、すごく新鮮だけど、レモンみたいな綺麗な黄色のワンピースは、色が白い結によく似合った。
「ん、可愛い」
素直に感想を述べると、結が照れたように笑った。