第7章 門出
真夏の夜、屋根の上に上がって夜風を浴びる。
昼間よりも暑さは幾分和らいでいるが、熱く湿気った風がぬるりと肌を撫でる。
わたしは厨房からくすねてきた冷酒の瓶に口をつけて、直接注ぎ込む。
「ぷ、はーーー」
ここで一人で飲むお酒はやっぱり美味しい。
久しぶりにここに来たな。
以前は嫌なことがあればここに来て、仕事をサボってばかりいた。
でもカカシが現れてからは、世界が変わったみたいにキラキラしていたから、ここのことはすっかり忘れていた。
もちろん嫌なこともあったけど、そんなことは大したことじゃなかった。
カカシの固くて、でもしなやかで、傷がたくさんある体に包まれると、わたしはいつだって安心することができたし、左に大きな傷がある、少し垂れた灰色の目で見つめられると、いつも、今でもドキドキしてしまう。
わたしのすべてがカカシが好きだと言っていた。
だから、親父さまには育ててもらって感謝してるけど、あの大名のところには絶対行きたくない。
そんなことを考えながらお酒を喉に流し込んでいると、
「行儀、悪すぎでしょ」
クスクス笑う、聞き慣れた大好きな声。
振り返らなくてもわかる。
「カカシ!!」
「今日は珍しく早く終わったから来ちゃった」
カカシが軽い足取りでこちらにやってきて、隣にストンと腰掛ける。
「嬉しい!」
わたしは空いている手をカカシの腕に絡めて、肩に頭を乗せて寄りかかる。
「うわ、結お酒臭っ」
「へへー、飲んじゃった。
カカシも飲む?」
「……いらない」
コップがないから飲んでいた瓶を差し出すと、嫌な顔をされる。
それどころか、飲み過ぎだとお酒の瓶を取り上げられてしまう。
「んー、いややー」
取り返そうと手を伸ばすが、届かない場所に遠ざけられてしまう。
「酔っ払いすぎだからもうダメ。
こんなとこで飲んでたらいつか落ちるよ」
「落ちる前に助けに来てくれるやろ?」
「いつでも来れる訳じゃな……」
もっともな反論をする素面のカカシが面白くなくて、首に手を回しキスをする。
カカシは一瞬ビックリして固まってたけど、すぐに背中に手を回し、キスに応えてくれる。