第3章 奇跡の夜、口付けの朝
適当に買ってきた弁当を食べ、シャワーを浴びると寝室に入る。
夕月に貰ったお香を焚いてベッドに潜り込むが、やはり眠気は来なくて愛読書を手に取って読む。
時計が一周回って首や肩が痛くなってきたころ、とうとう根を上げてオレは家を出た。
夕月のいる花街まで全速力で駆ける。
夕月はあんなに可愛いのに、なぜかお客がついていることは少ない。
オレが行く日は大体座敷での仕事を終えて部屋にいた。
きつい性格のせいかな。
夕月はあの独特の訛りで言いたいことをスパンと言う。
愛憎渦巻く嘘だらけの花街で、あの性格はいっそ心地よいと思うのだが、夢を買いに来る男たちには少々じゃじゃ馬すぎるのかもしれない。
夕月の最初に会ったときのツンとした態度を思い出して、クスリと笑みがもれる。
そうしてる間にも見慣れた提灯の灯りが見えてきた。
案内を断っていつものように夕月の部屋に直行していると、なんだか騒がしい。
また前みたいに男に襲われていたらと急いで部屋に行くと、夕月が他の遊女と揉み合いになっていた。
2人とも髪はグシャグシャ、着物は乱れまくりで目も当てられない。
前もいた小さな女の子が、必死に止めようと声を張り上げ涙目になっている。
とりあえず女の子の頭をポンと撫でて大丈夫だと笑ってやると、間に入って2人を引き離す。
「もー、何してんの?」
「ほ、火影様!?」
先に我に返った相手の遊女が、慌てて髪を撫で、着物を直す。
夕月はまだフーフーと荒い息をして、相手の遊女を睨んだ。
「次おんなしことしたら、こんなんじゃ済まさへんから!」
と物騒なことを言って、また掴み掛かろうとしている。
何があったか知らないけど、このままじゃ流血沙汰になりそうだな……
オレは夕月を後ろからはがい締めにすると、遊女に向かってもう行きなと合図をした。
「火影さまだって、夕月が幽霊だって知ったら離れていっちゃうんだから!!」
幽霊?前にあの男も言ってたっけ……
子供じみた悪口が引っかかるが、聞き返す前に遊女は騒ぎを聞きつけた妓楼の下男に連れられて行ってしまった。
もう1人残った下男に、大丈夫だから2人にしてくれと禿の女の子を連れて行ってもらって、部屋の襖を閉めた。