第3章 奇跡の夜、口付けの朝
やっと、終わった……
空が茜色に染まる頃、最後のハンコをポンと押して、オレはそのまま机に突っ伏した。
「お疲れっしたー」
ゾンビのような顔をしたシカマルが、オレが判を押した書類をヒラリとつまみ上げる。
「オレこれ提出してから帰るんで、6代目はもう上がってください」
「いや、オレが行くよ。
すごい顔色よ?」
ひどい顔色のシカマルを早く帰してあげたかった。
「いや、アンタの方がひどいから。
帰り道なんで、任してください。
明日、しっかり休んでくださいよ?」
そう言って帰り支度をとっとと整えて、「じゃ、お疲れさまです」とシカマルが部屋から出て行く。
「ありがと、シカマルもね。おつかれ」
とその背中に呼びかけて、うーん、と足の先から手の先まで余すとこなく伸ばす。
洗面に行ってバシャバシャと顔を洗って鏡を覗き込む。
「こりゃ、ひどいね」
お化けみたいな顔色になってしまっている自分に苦笑して、タオルで乱暴に顔を拭く。
さて、明日は久しぶりの1日休みだ。
どうしようかと座り慣れた執務室の椅子にもたれ考える。
とりあえず寝なきゃなんだけど、この疲れ切った体じゃ家に帰ってもきっと寝付けない。
夕月にもらったお香も少しは効果があるが、やっぱりあの部屋のようにぐっすりとは寝付けなかった。
やっぱりあの子自身、なんだよなぁ。
教え子ときっと大差ないであろう年齢の少女と、手は出していないとはいえ一緒に寝る背徳感はやはりある。
行くのをやめようと何度も思ったが、寝不足が続くとどうしようもなく足が向いてしまう。
いっそ恋人ならな……
感情のままに言葉を並べるところも、オレの話を聞くときのキラキラした目も、くるくるよく変わる表情も、ぜんぶ可愛いんだよな……
いつか間違って手を出してしまう前にやめなきゃと思うのだが、中毒のように会いたくなってしまう。
いい年して、ほんとヤバいよね……
ふー、と深くため息をつき椅子から立ち上がると、オレは火影室をあとにした。