第1章 "誰かを想うこと" 社長のお誕生日ss
「おーす!」
探偵社の扉を開けると挨拶した俺を見向きもせず、いつも以上に忙しなく動く探偵社員が目立つ
「何だ、今日はやけに騒がしいな」
俺は応接室のソファに鞄を置くと、前を通り過ぎようとした宮沢を捕まえて尋ねた
「なぁ、今日は何かあるのか?」
首を傾げながら尋ねた俺に宮沢は何個も箱を積み重ね、抱えたまま笑顔で答えた
「今日は社長の誕生日ですよ」
「社長……って、福沢か、」
俺は宮沢が答えた社長と言う人物を思い描いていると、隣で同じく荷物を持っていた国木田が眉を顰めて此方へと視線を向ける
「何だ、お前知らなかったのか?」
それに俺も眉を顰めて答えた
「知るわけねぇだろう……俺は此処へ来て少ししか経っていないんだ」
「嗚呼、そうだったな……ならば、構わないが、お前も何か用意しておけよ」
国木田は表情を変えずに発した言葉に俺は思わず腑抜けた声を上げる
「は?では無いだろう……此処へ居る限り、世話になる、誕生日を祝うのは礼儀だぞ」
「……俺は好き好んで居る訳じゃねぇよ、」
そうぼやきつつも俺は国木田の言葉に唸った、彼の言葉にも一理あるからだ
しかし、誕生日を祝うとて、何をすれば善いかも、ましてや、何かを用意しろ、と言われても贈るものも何が善いのかさえも判らない……
こういう時、何が善いのだろうか……
頭を悩ませて考えた末に俺は閃いて、窓から身を乗り出して、街中を探す
そして、目当てのモノを見つけた俺は窓の縁に足を引っ掛けた刹那、俺の肩に何かが置かれて、徐に振り返ると眉に皺を刻み込んだ国木田が其処に居た
「徳冨、窓から身を乗り出して何処へ行くつもりだ、」
「何処へって……狩ってくるんだよ、」
「狩ってくるって、何を……?」
いつの間にか、国木田の隣へ居た谷崎が恐る恐る尋ねてくる、それに俺は目を瞬かせた後に答えた
「何をって、決まってんだろ? 鼠だよ、鼠」
「鼠は止めろっ!」
「何でだよ、」
小さく眉を動かした国木田は額に青筋を立てると俺の肩を持って怒鳴り散らす
それに俺は耳を塞ぎながら不満を隠さずに言葉を発した