第22章 今の上官は風柱様です!※
まさかたかが薬師が大遅刻した上に、当主の家に来て早々お手洗いを借りるという暴挙をするなんて誰が思おうか。
宇髄さんと継子関係を解消しておいて良かったとすら思う。
彼に迷惑をかけることだけは本当に嫌なのだ。
恥ずかしさを抱えたまま、お手洗いのお礼をあまね様に伝えると耀哉様のお部屋に向かった。
「遅くなりました。ほの花です。」
襖の前でお声をかけるといつもと同じ優しい声で「どうぞ。」と聴こえてくる。
この声を聴くだけで本当に癒される。宇髄さんとは違う父のような温かさのある方。
深く頭を下げながら中に入ると、開口一番今日のお詫びを伝える。
「産屋敷様!本日は大変遅くなり、誠に申し訳ありませんでした。ご心配をおかけしたとのことをあまね様よりお伺いしました。今すぐ調合に取り掛かります故、どうぞお許しください」
頭を下げたままそこから微動だにせず、彼の言葉を待っていると肩に手を置かれて体を起こされた。
「ほの花、そんなに頭を下げなくて大丈夫。真面目な君が来ないから何かあったんじゃないかと心配してただけだよ。もう少し遅かったら天元に鎹鴉を飛ばすところだったけど、無事着いて本当に良かった。」
いや、それは別の意味でも本当に良かった。
もう宇髄さんの継子でもないのに、彼のところに鎹鴉が行くなんて申し訳なさすぎる。
しかしながら…
(…産屋敷様にはこの事を伝えた方がいい、よね…。)
元々は彼の配慮で宇髄さんのところに継子としてお世話になることになったのに、自分の不甲斐なさでこんな結果になってしまった。
宇髄さんが悪いわけではないのに、彼が責められたり、今回みたいにもう関係ないのに私のことを聞かれたら迷惑をかけてしまう。
今日は体調がいいのか、私の顔を上げさせるとふらつく事もなく歩く産屋敷様が布団に入るのを確認すると、私も立ち上がりいつもの位置に座り、薬箱を広げた。
そして、徐にもう一度頭を下げた。
「…産屋敷様にもう一つ謝らなければならないことがあります。」
私は宇髄さんに本当に本当に助けてもらった。
愛してもらった。
十分すぎるほど甘やかされて、彼のおかげで戦えるようになった。
そしてそれは彼の継子になるよう働きかけてくれた産屋敷様のおかげでもあるのだ。