第22章 今の上官は風柱様です!※
翌朝、起きるとそこは見慣れた天井ではない。
慣れ過ぎた生活は簡単に抜けなくて、いま置かれている状況を思い出すのに時間がかかる。
「…あ、しのぶさんのとこだった…。」
しかも一昨日は不死川さんの家にお世話になり、昨日からしのぶさんのところでお世話になっている私は宿なしの流浪人のようだ。
昨夜薬を届けたのは夢だったかのようにあまり覚えていない。無我夢中だったし、薬を届けたことに満足してしまって帰ってきて死んだように寝ていたから。
それでも習慣というのは恐ろしいもので、同じ時間に目が覚めて、朝の鍛錬の時間だとぼんやりと思い出す。
宇髄さんが稽古をつけてくれることはもうないにせよ、私も鬼殺隊の一員。
サボることは許されない。
隊服に身を包むと、昔共同鍛錬をしていた庭に向かい、準備運動を始める。
此処で最終選別のためにカナヲちゃんと鍛錬したけど、鬼殺隊に入りたいと思ったきっかけも宇髄さんだった。
鎹鴉がほしくて鬼殺隊に入りたくなったのだ。
彼にすぐ連絡が取れるなんて夢のよう!と浮き足立っていたように思う。
もちろん柱である彼の継子が鬼殺隊じゃないなんておかしいという理由もあるが、一番の理由は鎹鴉。
もう任務のことしか絶対に使わないだろうけど、本来の使い方になったのだ何もおかしくはない。
「…あれ?ほの花ちゃん。おはよう。」
素振りをし始めて五分ほど経った時、爽やかな朝にぴったりな可愛い声が聴こえてきた。振り向くとそこには蝶の髪飾りをつけた私の大切な友人。
「カナヲちゃん!おはよう。」
「鍛錬してるの?」
「うん。」
「それなら私もしてもいい?」
「もちろん!一緒にやろう〜。」
羽織を脱いでその場に置くと、隣で一緒に素振りを始めた彼女を見て私も再開させる。
ちらりと横目で見る彼女の髪飾りを見ると少しだけ胸が痛む。
宇髄さんがくれた花飾りはぐちゃぐちゃに壊れてしまっていて血みどろ。
贈り物をもうもらうことなんてないだろうに、耳飾りの片割れもどこへやったか分からず見つからない。
宇髄さんにもらったものは悉くちゃんと使える状態じゃないが、唯一残った耳飾りだけは片割れがなくても付けている。
対になったそれが無いのは一人で生きていくという意志の現れだと自分に言い聞かせた。