第22章 今の上官は風柱様です!※
渡されたのは耳飾りの片割れ。残りはほの花が持っているのだろうか。
何だこの形見分けのような儀式は。
そもそも不死川が此処に来た理由がまさかほの花の荷物を取りに来たからだなんて誰が思うか。
お館様の薬の調合があると言うことはほの花の大切な仕事だから薬箱を渡すことにしたが…
"残りの荷物も後日取りに来る"
それはもう此処には戻ってこないのだと言うことを安易に示している。
「…ほの花に会いてェ。いつなら会える?」
「…気持ちはわかるけどよ、アイツ、かなり憔悴しきってて今日だって泣き腫らした目で仕事に行った。悪ぃけど、もう少し待てェ。アイツの気持ちが落ち着いたら会わせる。」
不死川がほの花のことを考えて言ってくれてるのは痛いほどわかる。
だが、兎に角早く会いたい。
自分の気持ちだけがそこに置いてけぼりにされて、ほの花は別の道を歩み出そうとしていることに焦燥感に駆られていたから。
落ち着いてからではもう遅い。
そうなれば…
もうほの花は二度と此処には帰ってこないことを決定付けてしまうから。
「…不死川。何と言われようとほの花は俺の継子だ。お前には渡さねェから。」
「…簡単に手放しておきながらよく言うなァ?お前。そんな大事なモンなら首に縄でもつけて近くに置いとけやァ。」
「…何とでも言え。俺への苦言は甘んじて受け入れる。だが、それでもアイツだけは譲れねェんだよ。必ず…、必ず会わせろ。いいな?」
不死川の言葉は最もだ。
俺はほの花を継子にするんじゃなかったと言ってしまった。師匠にそんなこと言われたら、此処を去るしか道はないと言うのに。
そして自らそれを選択させた上、俺も了承してしまった。
ほの花のその時の絶望感ときたら計り知れないだろう。
それでも
やはり手放したくない。
手放せない。
もう恋人としては見てくれないかもしれない。
それでもいい。
継子だけでもいいから。そばにいてほしかった。
それが俺のたった一つの願いだから。