第12章 陽だまりポカポカ小噺 其の壱
「まぁ、分からなくもないが宇髄は気にしすぎだろ。」
「いや、絶対お前分かる時が来るって。甘露寺に馴れ馴れしく話しかける奴とか出てきたら絶対に俺の気持ち分かるから。」
断固として引かない宇髄に諦めてため息を吐いたが、まさかこの時に言っていたことが数ヶ月後の柱稽古の時に本当になるとは思わなかった。
「はぁ…ほの花の顔を見ずに任務に行くなんてつらすぎるからやっぱり顔見に帰るわ。」
「追い返されるんじゃないのか。」
「俺は元忍の宇髄天元様だぞ!見つからずにほの花に会いに行くくらいできるに決まってんだろ?」
「だったら最初から会いに行けばよかっただろうが。」
「分かってねぇな!会えない時間が愛を育むんじゃねぇか!」
たった今、会えないのがつらいから顔を見に行くと言った男の台詞だろうか。
この男は神楽ほの花という女の前ではただの男なんだな。
そんな姿を見て、俺もいつか甘露寺と普通の男と女で会えたらどれほどいいか…なんて夢物語を頭の中で考えた。
俺みたいな汚い生い立ちの人間がそんな風に感じることができたのもいつも天真爛漫でニコニコと笑う甘露寺のおかげ。
あと、同じように苦しい経験をしながらもああやって一人の女を一途に想える宇髄のおかげもあるのかもしれない。
(終)