第12章 陽だまりポカポカ小噺 其の壱
「おー、伊黒!この前はほの花が世話んなったな。」
「ああ、言っておくが俺は神楽には指一本触れてないからな。」
「わぁーってるって。」
任務から帰ってきて甘露寺と戯れ合ってて捻挫したことを知った翌日、俺は伊黒に礼をしに行った。
夜にはまた任務があるのだが、家に居づらい理由があったため、ちょうど伊黒に礼をすることを思いついた。
礼の印に持ってきた大量の茶菓子を渡すと訝しげな顔をされる。
「こんなに持って来られても困るんだが。」
「あ?甘露寺と食べりゃァいいだろ?二人分だ。アイツとなら余裕だろ。」
ほの花の話を聞くところによると二人は文通をしているようだから恐らく気の利いた贈り物だとは思うんだけどな。
「…そういうことならわかった。渡しておこう。神楽の足は大丈夫なのか?」
「あー、足な!足は大丈夫だ。」
「…?他に大丈夫じゃないところがあるのか?」
「ちょっとな…縄張りを守るために全力を尽くしすぎた。」
「はぁ?何の話だ。」
何を隠そう現在俺はほの花に所有印を付けすぎたせいで元嫁達にそれはもう白い目で見られている。
家に居てもほの花に近づく事さえ許してもらえないので仕方なく、任務までの間、伊黒を訪ねたわけだ。
「ほの花に独占欲の成れの果てを押し付けすぎて元嫁達に袋叩きにあってるわけよ、俺。」
「…………自業自得じゃないか。元々お前の独占欲は異常だと感じていた。」
「何だよ〜!伊黒までそんなこと言うか?!」
「神楽に声をかけた男の隊員は漏れなくお前に視線で殺されそうになるって専らの噂だ。」
「声かけるから悪ぃんだろうが。アイツは俺のなの。」
伊黒の話は一語一句間違ってない。
ほの花が鬼殺隊に入る前から俺の継子として目立つ存在だったが、目立つのはそれだけではない。
容姿端麗でお館様の専属薬師となれば鬼殺隊では知らない奴はいないのではないかと思うほど。
アイツの顔を見るためだけに俺の屋敷の前を彷徨いたり、胡蝶のところに行ってる時に声をかけたりする男が後を立たないのでそんな輩に視線で殺そうとすることの何がいけないのだ。
手は出しちゃいない。