第9章 『実家に帰らせて頂きます』※
額に彼の唇の感覚がしたので、見上げてみるとそのまま唇が降って来た。
触れ合うだけの口づけのはずが一度すると、性急に口内に彼の舌が侵入してきてゾワっと鳥肌が立つ。
「…ふ、ん…、ぁ…。」
ぐちゅ、くちゅと唾液が絡み合う音が聴こえてくるとあの日の情事が甦り、子宮らへんが疼いてしまう。
あの日以来暫くは膣がヒリヒリしていたのだが三日もすればそれは治まってくれていた。きっと彼は我慢してくれていたんだと思う。
それがいま、唇を貪るその姿が獣のように体現されているのだろう。
好いている人に求められるなんて幸せなことだと思う。
でも、今日は相談があったから来ただけでこういう行為を期待して来たわけではなかったので香油も多めに塗っているわけでもなければ、念入りに体を洗って来たわけでもないのでこの期に及んで二の足を踏んでしまう。
「…ん、う、ずいさ…、ちょ、ちょっと待ってください…。」
「…無理。俺、結構待ったっつーの。」
不貞腐れたようにそう言うと腰を抱えられて、横に敷いてあった布団に押し倒される。
ギラギラとした視線で自分を本能のまま求めてくれていることが分かり、決心は簡単に鈍ってしまう。
覆いかぶさって来た宇髄さんが私の首筋に唇を落とし始めた時、漸く消えて来た彼の"縄張り"だという所有印のことを思い出す。
「え、あ、あの、…付けるのは….」
「分かってるって…今日は我慢するから…だからほの花、いい?俺、ほの花が欲しいんだけど…。」
そんな風に懇願されて、断れるわけがない。
私だって一度目はあれほど恐怖が強かったと言うのに、経験してしまえば、溺れるほどに愛された記憶が一番残っていて、その後に甘い痛みを思い出す程度。
抱かれた事実が嬉しいと言う感情が上回っているため、こうやって求められてしまえば簡単に"抱かれたい"と言う感情を持ってしまう私も相当彼に堕ちている。