第39章 陽だまりの先へ(終)※
「どなたですか?」と言ってキョトンと首を傾げたほの花。
その姿はいつものほの花と変わらないのに其処に俺のことを好きだったほの花はいない。
まるで天地が逆転したかのような気分だ。
「な、何言ってるんだよ?!ほの花…‼︎宇髄さんだぞ?!」
「…え…?!え、と…??」
ほの花の言葉に微笑んだのは俺くらいのものだろう。
久しぶりに聴いたその声がいつものほの花で俺が好きなほの花の声で、嬉しくて笑いが込み上げてしまった。
だから背後から急に俺の隣に並んだ竈門がほの花を責めるような言葉を口にしたのを慌てて制する。
「かーまーど。落ち着け。ほの花が困ってんだろ?」
「宇髄さん…!で、でも…!!」
少しだけ怯えたような目で俺たちを見ているほの花にまずは笑顔を向けた。
すると、少しだけ表情が和らぐのを確認してから言葉を選ぶ。
「…気分はどうだ?」
「…え、…と…、だ、大丈夫…です。こ、此処は…どこですか?」
「その前に…自分の名前と年齢言えるか?」
部屋の中をキョロキョロと見渡しているほの花に聞けば、こちらを見上げてコクンと頷いた。
どうやら自分のことは分かるみたいだな。
「神楽…ほの花、です。19歳になりました。」
…と言うことは俺と出会う前、まだ里にいる時の記憶しかないっつーことか?
不思議なほど落ち着いている自分に驚きを隠せない。どちらかといえば俺も竈門のように慌てふためき、ほの花の肩を掴んで思い出させようと必死になりそうなところなのに、今の俺は物凄く落ち着いている。
「そうか。俺は宇髄天元。コイツは竈門炭治郎。心配すんな。お前の味方だ。」
「……、は、はい…」
急に味方と言われてもほの花からしたら初めて会った人間に変わりない。
目を彷徨わせて気まずそうにしている様子を見てどうしたもんか…と考えを巡らせるがこんな時に役に立つ名前を思い出した。
「ああ、そうだ。正宗、隆元、大進ならわかるか?」
その名前を出した瞬間、突然ほの花が俺を見てぱぁっと花が咲いたような笑顔を向けてくれる。
その笑顔が可愛くて理由はどうであれ笑ってくれたことに安堵した。