第38章 何度生まれ変わっても
人生とは選択の連続。
過去の選択で今がある。
それは決して良いものではなくとも、そこにはきっと意味がある。
どんな経験も"しなくていい"というものはない気がする。
それがあるから今がいいと思える。
過去がいいと思える。
未来に希望を持てる。
だから俺は早くほの花に目を覚ましてほしかった。やり直しがしたかった。
ほの花とまた一から恋人として愛を育み、夫婦となり、アイツと未来を生きたい。
そんな未来を思い描いた。
「ほの花…!おい!しっかりしろ!」
だから早くお前の声を聴かせてくれ。
どんな言葉でもいいから。
ピクピクと顔の筋肉が引き攣ると少しずつ黒曜石のようなその瞳に俺が映っていくのが目に入る。
胸が締め付けられる。
息が止まりそうだ。
どれほどこの瞬間を待ち侘びたか。
そして全て開ききったその瞳に俺の姿を捉えるとほの花は何度か瞬きをした。
体が震える。
先ほどまであれほどほの花の名前を呼んでいたというのに今は声も出ない。
ほの花の声が聴きたくて固唾をのんで目の前の愛おしい女の言葉を待った。
「………あの……どなたですか…?」
人生は選択の連続。
あの日、お前は俺の腕を治さなかったらこうならなかったのか?
今となってはわからない。
でも、その声は待ち侘びたほの花のもので俺は背後でワナワナと震えている竈門をよそに勝手に顔が緩むのを感じた。
どんな言葉でもいい。
どんなほの花でもいい。
生きてさえいれば、それでいい。