第37章 貴方は陽だまり
「師匠…!」
あれ…?
俺は…死んだのか?
あったけぇな…。何か体がぽかぽかする。
「師匠…!しっかりして下さい!!」
いや、違う。
毒の回りが速いため、奴を油断させるために心臓を一時的に止めただけのこと。
それにしても先ほどまで煩いほどの音が響き渡っていたと言うのに今は太陽の下に照らされているような暖かさを感じる。
なんて言う静かで暖かい世界だ。
「師匠ーーーーー!!!」
じゃねぇ、うるせぇ!!!
耳元でギャーギャーギャーギャー煩い女の声に俺は目を見開いて起き上がった。
「だぁあああ!うるっせぇな!!耳元でギャーギャーギャーギャー騒ぐなっつーの!!!俺は耳がいいんだわ!!」
「ヒィィッ!!!」
両手を広げて震えているその女の姿に今度は俺が目を見開く番だった。
随分とやられた筈なのに体は軽い。
まだまだ戦えそうだ。しかし、毒は回ったままのようだった。
「…し、師匠…!いま、薬の調合を…!」
「いい。今はそれどころじゃねぇ。」
遠くの方でまだ鬼の気配がする。
俺が死んだと思ってこの場を離れたからだ。
竈門達が応戦してくれてるかもしれない。
早く行ってやらねぇと。
何故、自分の体がぽかぽかと暖かく、陽だまりの中にいるような感覚だったのか。
今の俺ならばすぐに予測がついた。
「…ほの花。お前には言いてぇことが山ほどある。」
「…?は、はい。とりあえず止血も…!」
「そんなことしてる時間はない。一気にカタをつける。」
俺はその場に立ち上がると座り込んでいるほの花を見下ろした。
顔面蒼白で見上げるその顔は俺のことが心配だからと言うだけではない。
"あの"能力を今し方使ったからだろう。
「俺たちは勝つ。お前の家族の…里の奴らの仇を取ってやる。」
アイツらがほの花の里を全滅させた張本人だと知ったならば俺のやるべきことは決まった。
それがなければ俺たちは出会わなかったかもしれない。
でも、それがあったからこそほの花は苦しみ悲しみ泣いたのであれば惚れた女の涙の礼くらいはしてやらねぇと気が済まないというものだ。