第37章 貴方は陽だまり
「…雛さん、ほの花様。必ず生きて戻ってきてくださいね?」
ほの花と雛鶴の会話に割って入ったのは他でもない正宗だった。
その顔は慈愛に満ちていてとても穏やかだった。
何故そこまで落ち着いているのか?
ほの花も雛鶴も分からないほどに。
「…正宗様…?」
「正直…、自分がついて行きたいのは山々ですが…人数が増えれば増えるほど…宇髄様達のご迷惑になりかねません。ほの花様、よろしくお願いします。」
「……正宗……。」
誰もがそうだ。
誰もがこの戦いに関しては…"柱"以外は足手纏いになりかねない。
それをぞろぞろといくことは自殺行為だと誰もが分かっているのだ。
「…ほの花様とは長い付き合いですが…、一回言い出したら聞かない頑固な性格です。」
「…ちょっと、悪口….?」
「いえ…。でも、これだけは言えます。ほの花様がそばにいたからこそ我々は命が助かった。今回もそうだと信じています。雛さんを…よろしくお願いします。」
ほの花の治癒能力のことは正宗達元護衛にだって内緒にしていたこと。
だから鬼に対して相反する力があるなんて正宗は考えもしないだろう。
あの日、里が襲われた日に助かったのはほの花と共に里にいなかったから。
でも、今となってはほの花のそばにいれば助かるというのはあながち間違いではない。
ほの花のそばにいれば迂闊に攻撃をできない。血を浴びれば立ち所に消滅してしまう可能性だってあるのだから。
そこまで正宗は分かってはいない。
ただほの花と共にいたことで命が助かったことで数奇な運命を感覚的に感じていたのだろう。
そう考えれば正宗の意見は的を得ていた。
ほの花が雛鶴のそばにいることで鬼は迂闊に手を出せないからだ。
「ええ…。必ず守るわ。任せて。」
「もちろんほの花様もご無事で戻って来てくださいね。宇髄様も一緒に。」
「そうね。師匠は負けない。だから一緒に帰るわ。」
ほの花は正宗と頷き合うと、雛鶴の手を取った。
雛鶴は宇髄の妻。
命の順序の一番上にいる人物だ。
(…宇髄さんが大切なものを私が守る。)
ほの花は雛鶴の手を引き、歩み出した。