第35章 約束
「…いやぁ…こりゃまた…不細工な子達だねぇ…」
見えない…。
わたしの前には壁のようにでかい宇髄さんが立ちはだかっていて、全く前が見えない。
自分は背が高いと思っていたけど、宇髄さんを前にすれば大したことないのはよくわかった。
前に並ばせられたのは炭治郎改め"炭子''、
善逸改め"善子"、伊之助改め"猪子"
"のみ"
私は宇髄さんの背中に隠されて会話の中にも入れてもらえない。これが宇髄さんの作戦なのか?と思うと唇を尖らせて彼の背中を睨み付ける。
「…あの、宇髄さ…「そこを何とか〜!お願いしますよ」」
いつになく猫撫で声の宇髄さんに後ろでただただ顔を引き攣らせることしかできない。
会話を聴き取ろうとなるべく宇髄さんに引っ付いて耳を澄ませてみる。
「ちょっと…うちでは…。最近も新しい子が入ったばかりだし、悪いけど…」
あ、断られたそうなんだと言うことだけがわかると役に立ちたい一心で顔を覗かせようとしてみたが、宇髄さんが後ろ手でがっちり手を掴まれていてそれは叶わない。
でも、少しの沈黙ののち女の人がおずおずと声を出した。
「…でも、まぁ…一人くらいなら」
「じゃあ一人頼むわ。悪ぃな奥さん」
え、え?!何で?
どういうことなの?
ちっとも前の状況が分からずにどんどんと進んでいく事柄に一人だけ蚊帳の外。
不満しかない。どうせ宇髄さんのことだから私のことを居ないものとして売れないからって連れて帰る気なんだ。
そっちがそう言う気なら私にだって考えがある。
「じゃ、じゃあ真ん中の子をもらおうかね。素直そうだし…」
「はい!一生懸命働きます‼︎」
この声は炭治郎だ。
…ということは炭治郎が売れたと言うこと。
ちっとも前の様子は見えない上に、顔を出させてもらえないので状況は耳で拾ったことのみ。
何で近くにいるのにこんな情報収集をしなければいけないのだ。
しかし、どうせ宇髄さんは頼んでも駄目だと言うに決まっているのだ。
だけど、炭治郎の姿を確認することもできないまま、私は宇髄さんに引き摺られるようにしてその場から連れ出されてしまうと、仲間はずれ感に腹が立ってきた。