第35章 約束
目が覚めると其処は見慣れた自分の部屋
妙にスッキリしてる体にハッとして起き上がると其処にはいる筈のほの花がいない。
昨日、抱き潰して腕の中に入れたまま眠ったはずなのに。
散らばった夜着を身につけると慌てて隣の部屋に向かったが、襖を開けた先は整然としていてほの花の姿は見当たらない。
嫌な予感がする。
背中に汗が滴り落ちるとほの花の部屋を出て、庭に向かう。
心臓がバクバクとうるさくて腹が立って仕方ない。
鍛錬をしているんじゃないかと思ったから。
しかし、其処にも彼女の姿はない。
いよいよ焦ってきて屋敷の中に戻ると「ほの花!!」と叫びながら廊下を闊歩する。
「はぁーーい!!」
すると可愛らしい声が奥の方から聴こえてきてその足は止まる。
今の声は間違いなく、ほの花。
出て行ったのではない。
此処にいた?
それが分かっただけで、ふぅ…と大きな息を吐いて、ほっとしたのがわかる。
声がした方に歩みを進めると、お盆をもったほの花が視界に入ってきた。
「あ、師匠!おはようございます!朝餉を作っておりました!」
「あー…そう、か。」
──師匠
そうだよな。行為中だけと言ったのは俺だ。彼女は間違っていない。
それにあんなことをして此処にいてくれるだけでもありがたいくらいだ。
「今朝は寝坊してしまって…、申し訳ありません。だからおにぎりにしたんです!暖かいので縁側で食べませんか?」
寝坊させてしまったのは俺のせい。
昨日のことを謝ろうと思っていたのに、先に違うことで謝ってきたせいで出鼻を挫かれてしまった。
「…謝んなって。別に何でもかまわねぇよ。むしろありがとな。作ってくれてよ。」
「いえ!そんなそんな!これくらいしか師匠にできることはありませんので、お任せください!」
それは遠回しに昨日の行為はもうしないと言っているのか?
にこやかに笑うほの花の首筋には俺がつけた所有印があったはずなのにそれは忽然と姿を消している。
化粧で消したのかもしれないが、何の痕跡も残っていないことが虚無感を生んでため息を吐いた。