第2章 興味本位
鬼殺隊として鬼が相手ならば勿論一般人も守るが、鬼が絡んでなければ自ら面倒ごとに巻き込まれるのは御免被る。
そこに優先順位はないからだ。
しかし、あの時何故だか吸い寄せられるようにその女に釘付けになった。このあたりじゃ見かけない栗色の髪は艶々で、伏し目がちなのに美しいとわかる容姿なのに、それに似つかわしくないほどの顔色の悪さと気怠そうな表情。
(…体調でも悪ぃのか?)
初めはそれだけだった。座り込むその場所がたまに行く定食屋の前だったので、大方食べ過ぎたか?と安易に思い、一度はその場を通り過ぎた。
そのまま屋敷に一旦帰ってから今日は柱合会議があるのでこんなところで油を売ってる暇はないのだが、脳裏に焼き付いた彼女を意識から飛ばすことが出来ず、一つ息を吐くと踵を返す。
そして蹲る彼女の前に立ち止まると声をかけた。
「お前、大丈夫か。」
顔を上げた瞬間、この俺が一瞬息を飲み固まるほどの美しさ。自慢じゃねぇが、それなりの女を見てきたし、自分自身も顔は整っていると自負している。
それなのに彼女の瞳は髪とは反し漆黒の黒目がちで肌は陶器のよう。このまま動かずにいたら西洋人形と間違えてしまうのではないかと思うほどだった。
見惚れてしまったと言っても過言ではないのだが、彼女の前に屈んだ瞬間、この現を抜かすような空気は一瞬で様変わりを見せることになる。
「…き、もちわる…、」
「…は?!お、おい!ちょっと待て!俺様のところに吐くんじゃねぇ!」
あろうことかその女はうぷ…と込み上げてきたそれを自分の手で覆うことも間に合わずに盛大に俺の胸で吐きやがった。
最悪だ。
まさか酔っ払いか。こんな昼間からとんだ女に捕まっちまった。とはいえ、自分から声をかけたのだが。
あまりの衝撃に文句の一つでも言ってやろうと思ったのに、小さな体を震わせながら涙を流している彼女を見たらとてもそんなことはできなかった。
酒の匂いもしない。
吐いてるっつーのに彼女の髪からは優しい花の匂いがして、仕方なくその小さな背中を摩ってやった。