第1章 はじまりは突然に
「……え、…?何…これ…」
そこは見渡す限り、血の海。
幾つもの遺体がゴロゴロと転がり、咽返りそうになるほどの異臭。
間違いなくここは私たちの隠れ里のある彩の国。
足早にそこを目指していた私は一足先にこの惨状を見ることになり、愕然としていた。
「こ、これは…?!」
しかし、呆然としていたところに自分の護衛を務めてくれていた3人の声が耳に入ると慌てて彼らに声をかける。どう考えてもこんなところで油を売っている暇はないのだ。
「貴方たちは早く自分の家族の元へ!」
状況は限りなく最悪といえる。こんな中に息のある人が残っているのだろうか。見たところ生存者などいないのではないかと思わせるほど。
それでも私は彼らを急かして、自分も家路を急ぐ。
(…お願い、生きてて…!お父様、お母様、お兄様達…!)
この国の現当主である父。そして家族が住むのは一番奥の屋敷。そこに近づけば近づくほど動悸が激しくなる。自分の第六感は働く方だと理解している分、嫌な予感しか浮かんでこない。
それでも大丈夫と心を落ち着かせようと忙しない。
(お母様は…さておき、お父様もお兄様達はとても強い。きっと今も戦ってるんだ…何者かと…)
あたりは陽が落ちて、橙から漆黒へと変わりかけているこの里が不気味なほどの空気に包まれる。足は最高潮に急いでいるのに、だんだんと屋敷が視界に入るとゾクリと悪寒が走る。
──早く行かないと…
そう分かっているのにどんどんブレーキがかかるように遅くなる足と全身を襲う冷や汗。
ここに入ったら駄目だと言われている気がするのだ。
震える手でゆっくりと屋敷の門を開けてみるとそこに広がった景色に愕然とした。
鼻を刺激する血だまりの中
自分の父親だろう人が
人を食べていたから。