第34章 世界で一番大切な"師匠"※
宇髄さんに暴言を吐いてしまった事件から一週間が経とうとしている。
すっかり元の生活に戻って、前よりも宇髄さんも師匠として稽古もつけてくれるし、私が望んでいた絵に描いたような師弟関係がそこにはあった。
「はぁっ、…はぁっ…!お、おわり、です、か?」
「ああ、これで終いだ。よく頑張ったな。ほの花。」
「…し、死ぬ、とこでした。」
「死ぬかよ。茶飲んだら湯浴みしてこい。俺は殆ど汗かいてないからよ。」
涼しい顔をしてそう言う宇髄さんは確かにほんのり額に汗をかいてる程度。
それに比べて私は隊服から滴り落ちるくらいの大汗。体力の差に絶望することもできない。最早違う人間なのだと諦めの境地だ。
「…な、なんで…師匠、そんな、涼しい顔、してるんですか…!」
「まぁ、お前より鍛錬積んでるからな。仕方ねぇよ。」
湯呑みに入った冷たい麦茶を渡されるとそれを一気に流し込んだ。
今日の鍛錬は今までで一番キツかったのではないか?と思うほどだったけど、終わってみれば達成感もあるし、今日は楽しみなことがあるので余計に頑張れた。
フンフンと鼻歌を歌いながら手拭いで汗を拭いていると不思議そうに此方を見ている宇髄さんが口を開く。
「何だよ、やけに嬉しそうだな。まさか鍛錬はキツめがお好みか?」
「なっ?!ち、違います!」
これ以上キツくなられるのは困る。
いや、強くなるためには仕方ないので、キツくするならばせめて少しずつにしてほしい。
しかしながら、あまりに楽しみすぎてうっかり鼻歌を歌ってしまったのが運の尽き。
別に今の宇髄さんはそんなこと気にしないからいいか?と思ってそれを言おうとしたら宇髄さんから先に声をかけてきた。
「あ、そうだった。明日お前、暇か?」
「明日、ですか?」
「おお、須磨がよ、鰻食いてェって煩いからよ。連れて行くんだけどお前も来いよ。」
「えぇ?!」
前にそれは断ったはずなのに、ちゃんと私にも声をかけてくれるなんて優しい…なんて思ってる場合ではない。
たまたまとは言え、まさか予定が被るなんて思わなかった。
「あの、今日…同期のみんなでお昼ごはん食べに行くんです。」
「はぁ?それがどうした。」
「う、鰻食べに行ってくるんです…。」
その時の冷たい空気をどう表現したらいいだろうか。とにかく宇髄さんの顔が怖くて見れなかった。