第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
"師匠と弟子"
それが俺とほの花の関係性
ふざけ合って笑いあえば楽しいし、ほの花が笑っていると妙に安心する。
悲しそうな顔をしていれば笑わせてやりたいと思うし、泣きそうな顔をしていれば抱きしめたくなってしまっていた気持ちなどコイツには言えやしない。
師匠として扱って来るほの花はこれ以上ないと言うほど完璧な振る舞いだ。
それは不自然なほどに完璧に"師匠と弟子"。
少しブレようものならば、ものすごい勢いで元の位置に戻そうとする。
磁石のように師匠と弟子という関係性になるその様が異様に感じたけど、ほの花が笑っていると"まぁ、いいか"と思ってしまう自分もいた。
魚が乗った皿を二皿持たされて居間に向かうと既に食事を始めていたアイツらがくるりとこちらを見た。
「あれー?天元様、お手伝いしに行ってたんですかぁ?」
「手伝わされたんだわ、クソ弟子に」
「手伝わせました!鬼師匠に!」
「はぁん?!テメェ…、魚骨ごと食わすぞ!!」
こうやって師匠と弟子になれば、ほの花は笑ってくれる。
笑って俺を見てくれる。
さっきの邪な気持ちに蓋さえすれば、ほの花との関係は揺らがない。
「ひぇぇ…!ご、ごめんなさぁい!師匠は神様です!」
「分かれば良いんだ。分かれば。豆大福買って来てやったからそれも食えよ。そのかわり俺のことを神と崇め奉れ」
「わーい!豆大福ーー!!ありがとうございます!鬼神様!!」
「だーかーらーーーー!ほの花!てめぇえええ!!」
そんなふざけ合う俺たちを全員が見ていて、それを止める人はいない。
この気持ちは間違いだよな?ほの花。
俺がちょっと間違えただけだよな?
すぐに元に戻るよな?
お前が可愛いとか
抱きしめたいとか
そんな気持ちが頭を埋め尽くすのはきっと勘違いで、ほの花は俺の弟子だ。
コイツは俺とどうこうなりたいなんて微塵も思っちゃァいねぇ。
完璧な弟子として立ち振る舞うその姿に一寸の綻びもない。
お前は
俺の
"ただの継子"
そうやって言われ続けているようだ