第31章 忍び寄る終焉※
宇髄さんの屋敷に来てからもうすぐ9ヶ月になる。
得体の知れない私たち四人を簡単に受け入れてくれて、見初めてくれて恋人になった。
たった9ヶ月がまるで何十年もの時を過ごしたかのような濃密さで思い出すだけで楽しい日々だった。
喧嘩もしたけど、恋人と喧嘩などしたことなかった私からすると貴重な経験だったし、アレがあったからもっと深い関係性になれたと思う。
これからも宇髄さんの隣でずっとずっと彼を見続けよう。大好きな人のそばにいられるなんて最高の贅沢だ。
食器の片付けを終えて、順番にお風呂に入って行くのはいつものこと。
宇髄さんがいる時は一番風呂に入ってもらうのもいつものこと。
そして私が最後に入るのもいつものこと。
最初は、最後に入ればお風呂掃除ができるし、なかなか手伝えない家事の贖罪になると思ったから。
宇髄さんの恋人として私は申し訳ないほどの厚遇を受けてきたから、それくらい当然だと思っている。
今日も最後に隅々まで綺麗に掃除をすると、ホカホカになった体を冷やそうと自分の部屋に入った。
すっかり此処は私の薬の調合部屋になっているけど、宇髄さんが此処に来ることも多かったので思い出も多い。
あまり長居をすれば隣の部屋から大好きな彼が迎えに来てしまうので、鏡台で髪を梳かして保湿剤を塗ると彼の部屋に向かった。
襖を開けると宇髄さんは何かの本を読んでいたようで明かりを点けていた。
よく見るとそれは私が使っている薬事書。
別に読まれても困ることはないが、それを読んでるのは珍しかったので少し驚いた。
「おー、出たか。ちょっと借りてるぞ。」
「うん。別に良いけど…どうかしたの?」
「んー?ただお前の仕事のことをちょっと知りたくなっただけ。全く意味わからんな、これ。やっぱ、お前すげぇわ。」
近寄ればそう言って頭を撫でてくれる宇髄さんだけど、子どもの頃から読んでる本だ。
分かって当然。
それでも撫でてくれる手が温かくて目を瞑って堪能した。
「…私も呼吸のことは意味わからないよ。」
「そりゃ仕方ねぇよ。」
隣に座ってそれを覗き込もうとしたらすぐに本を閉じて口づけをされる。
お互い風呂上がりだからかいつもより熱い口づけを交わすとゆっくりと布団に押し倒された。
これから始まる行為を止める人は誰もいない。