第30章 "初めて"をください※
ほの花は素直だ。
物凄く分かりやすい。
顔に書いてある。
"天元の初めてがもらえて嬉しい"って。
先ほどまでは、"やっちまった!"と顔面蒼白だったと言うのに、今は頬を桃色に染めて可愛く笑うほの花が愛おしくてたまらない。
どうしてこんなに可愛いんだろうか。
体の上に乗せたまま寝転んでいると言うのにちっとも重さは感じないし、細っころいのに出るとこ出てて厭らしい体つきのほの花は日に日に美しく、大人の女性へと変化していく。
初めは品のあるお嬢様と言った感じだったが、今は妖艶さ漂う美しい女。
俺の手で育てたと言っても過言ではないと思う。
それほど手塩にかけた恋人を腕の中に収めていることがこれ以上ないほどの幸せを感じている。
「…なぁ、嬉しくねぇの?」
もう顔を見ればわかっていると言うのに、言葉で聞きたい俺は何とか言わせようと胸の上にいるほの花の顎を上げて視線を絡ませてみる。
目があえば彼女の美しい硝子玉のような瞳が俺を惑わしてくるので、吸い寄せられるように口づけをした。
二度も立て続けに絶頂を迎えたことでポケーっとしていたほの花だったが、様子はすっかり元通りだ。
俺の問いに視線を彷徨わせながら、ふにゃりと顔を綻ばせた。
「…う、嬉しい…。天元の…はじめて…。」
「だろ?俺も。ほの花に"初めて"あげられてすげぇ嬉しい。もっともらって欲しかったけどよ。ごめんな?」
「そ、そんなことない…!!数なんて…関係ないよ。天元の"初めて"嬉しい…。」
言葉にしてしまうと余計に恥ずかしくなってきたのか上げていた顔を再び俺の胸に埋めてくると、「えへへ…。」と込み上げてくる笑いがこぼれ落ちている。
俺の"初めて"は多分もうあまりないのだろう。
"最後"の女になってくれとは言ったが、本当は"初めて"が欲しかったのだろうな。
たった一つでも残っていて、それを見つけたのがほの花自身だったことは幸運だ。
俺ですら一体何が残っているのかなんて分からない。
"初めて"の宝探し状態なのに、たった一つのそれでこんなにも喜んでくれる純粋な彼女を見ると、申し訳なさと可愛さが交錯して変な気分だ。
しかし、やはりこの笑顔を見るのがおれの幸せでもあると実感せざるを得ない。