第29章 停戦協定※
瑠璃さんの口ぶりからすると宇髄さんはそこまで性欲強く無いみたいな言い草だが、それこそ私は信じられない。
しかし、本人がいないところで下世話な話をしていることが若干申し訳なく感じた私は話題を変えることにした。
「…性欲は、別にいいんですけど…、買った浴衣を渡せなかったので今はそのことで頭がいっぱいです。」
部屋に持ってきたはいいが、渡す筈の人物がいないとなると所在なさげに寂しそうに見える浴衣。
時間が経てば経つほど渡しにくくなるのに、肝心の宇髄さんは任務の真っ最中。
渡すのは何日後になることやら…。
「驚かせてやったら?せっかくだし。」
「驚かせる?」
瑠璃さんの提案に小首を傾げるとニヤリと笑った彼女はとても悪い顔をしていた。
「たまにはわざとヤキモチ妬かせて見たら?それで実は天元のでしたって。柄も天元が選ばなさそうな物だし騙されるわよ!」
「え…!いや、それは…!後が怖いと言うか…。」
「大丈夫よ。抱き潰されそうになったら救出に行ってあげるから。」
それはそれで更なる後が怖いと思うのはわたしだけ…?!でも、瑠璃さんはめちゃくちゃ楽しそうだ。
顔がずっとニヤけている。
「…やめておきます。宇髄さんに普通に渡しますよぉ…。ヤキモチわざと妬かせていいことないです…。」
「えー?そう?面白そうなのに。アイツは痛い目にあっていいくらいだと思うけどね。」
瑠璃さんって敵に回すと怖い人なのだとこの時初めて察した。
少しばかり仲良くなれたことでそう思ったのだから、彼女が許してくれて良かった。
「とりあえずその浴衣はこっちの部屋で預かっておくわ。ちゃんと面と向かって渡したいんでしょ?」
「あー…そうですね。ありがとうございます。」
確かにちゃんと面と向かって渡したいというのはあるので、瑠璃さんの申し出を断る理由はない。
部屋に置いてあって所在なさげな浴衣を取りに行くと彼女の部屋に置かせてもらった。
それは別にわざとヤキモチを妬かせるためではない。
宇髄さんに「いつもありがとう」と感謝の気持ちを直接伝えたかったから。
でも、瑠璃さんが面白がっていたのをどうやら諦めていなかったようで、その浴衣のせいで事件が起こった。