第28章 無欲と深愛※
「派手に不満が溜まった。」
「えー…?何で?」
「お前さ、瑠璃にあんなに言われて悔しくねぇの?!もっと怒り狂えとまでは言わねぇけど、せめて俺に泣きついたりしねぇの?!」
食事中、怒りのあまりに体が震えていた宇髄さんにこちらが戦々恐々として不満が溜まっていたと言うのに、部屋に戻るや否や冒頭の台詞だ。
こちらももう少し落ち着いて欲しいと言うのに。
「泣きつくって?何を泣きつくことがあるの?」
悲しくもないのに泣きついたりできないし、怒り狂えと言われても怒りもないのだから仕方ない。
それなのに宇髄さんは私のその言葉を信じられないと言う表情で受け取ると、体を引き寄せて腕の中に閉じ込められた。
「…泣いても良いんだぞ?あんな酷ぇこと言われてつらくねぇの?」
「えー…特に。だって大したこと言われてないよ。それに事実じゃないってみんながわかってくれてるならそれでいいもん。」
「俺は嫌だ!自分の女が派手に馬鹿にされてるみたいで腹が立って仕方ねぇ!!」
抱きしめてくれるのは嬉しいのだが、あまりの力の強さに骨が軋む。
「痛い痛い痛いーーー!天元〜!ゆるめてぇーーー!」
「あ、悪ぃ悪ぃ。つーかよ、お前、心が広すぎなんじゃねぇの?そんなんじゃあいつにつけ込まれるだけだから殴り合うくらいしていいんだぜ?」
「女の子殴るなんてできるわけないでしょうが!!」
「お前は言葉の暴力受けてるだろうが!!」
この調子ではっきり言って堂々巡りだ。
宇髄さんが私のことを大切に思ってくれているのは分かっている。
だからこそこの口振りなのだと言うことも。
でも、心が広すぎなんてそんな綺麗なものじゃないんだ。
「あのね、天元。別に心広くなんてないよ。ただ私にとってそんなことは大したことじゃないの。それだけ。ほら、お風呂入って来て?」
「一緒に入ろ…「入りません。」何でだよ!?変な男と温泉入るくせに俺とは入れねぇってか?!」
「ちっがーーう!!それとこれとは話が別じゃない!!」
鋼鐡塚さんの件は私が悪いが、こう言う時の宇髄さんは少しだけ距離を置いた方が賢明だ。
不満そうにこちらを見下ろしてはいたけど、「ほら。」と促せば渋々風呂場に向かって行った。