第26章 君の居ない時間※
「…様…、ほの花様…!」
明け方、肩を揺すられて目を開けると大進が眉間に皺を寄せて私を見下ろしていた。
いつもは宇髄さんに抱きしめられて寝ていたのに…という寝ぼけた考えは一瞬で消え失せ、慌てて体を起こす。
「っ、どうしたの?!」
「重症の患者様が…一名苦しそうにしていて…!すぐにきてください!」
「分かった!」
慌てて服を着替えると大急ぎで目の前の診療所に向かう。着替えてる時間すら惜しい。
明日からは夜着に着替えるのもやめよう。
診療所に駆け込むと聴診器を引っ掴み、重症の方の部屋に向かう。
しかし、真っ直ぐに向かったベッドの上では既に呼吸が止まってしまった患者さんがいて、目を見開いた。
持ってきた聴診器で心音を確認しても、やはり音を確認できない。
だとしても、心停止したばかりのはずだ。
私は患者に跨がると胸部の心臓マッサージ開始する。
「大進!!診療室にある私の薬箱からアドレナリンって書いてある薬剤と注射器持ってきて!!」
「承知しました!」
三十回の心臓マッサージの後、気道確保した上で人工呼吸。
「1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ………」
数を数えながら必死に患者の蘇生を試みる。
まだ間に合う。
間に合え。
誰一人として死なせたくない。
心臓マッサージを行えば、次は気道確保して人工呼吸だ。
患者の顎を持ち上げて息を吹きかけること二回。
駄目だ、もう一度。
「…っ、頑張って…!死なないで…!!自分で息して…!」
蘇生法をしても、後は患者の生命力に賭けるしかない。
お願い…!
頭の中で数を数えながら、必死蘇生を続ける。
いつの間にか戻ってきていた大進が後ろでこちらを見つめる中、何度目かの人工呼吸で少しだけ患者の瞼が動いたのを確認できた。
慌てて首にかけていた聴診器で心音を確認すると微弱ながらその音が確認できたので、大進が持ってきてくれていたアドレナリンを投与する。
「…頑張って、…頑張ってください。」
蘇生法を何分か続けた上に独特の緊張感で額に汗が伝う。
人が目の前で死ぬのを見るのは嫌だ。
こう言う場面に出くわすと嫌でも目の前で亡くなった母を思い出してしまうから。