第26章 君の居ない時間※
急に体を隠すように座り込んだその女は先ほどまでの威勢はどこへやら。
めそめそと泣き出したのでいよいよ面倒臭い。
とんでもない痴女かと思いきや、急に純情ぶってくる目の前の女に怒りと呆れが入り混じってよくわからない感情に取り憑かれた。
「う、っ…ひっく…っ、宇髄さん、に嫌われちゃう…っ!」
こんなことを先ほどからずっと言い続けているこの女。
話を聞いていると鬼殺隊の柱の男と恋仲のようだ。…と言うことは上から見下ろすと背中にまでばっちりと付いているその夥しい量の所有印は宇髄とか言う男が付けたもの。
随分と独占欲が強いと来た。
こんなに大量に己の証を付けるくらいだ。
間違いなく大切にしている女なのだろう。
先ほどは言いすぎたが、顔に釣られて体が目当てなわけではないだろう。
その程度の女であれば、これほどまでに所有印をつける必要性がない。
誰にも奪われたくないほど大切な女だから、本人が見えないところにまで痕を残してあるのだろう。
自分はこんな糞餓鬼に手を出したりはしないが、確かに飢えた男であればこの機会にまぐわってやろうという不埒な男もいるだろう。
この美貌だ。そんな男が彷徨いてもおかしくはない。
「…はぁ…。別に何もしてねぇだろうが。その男に後ろめたいことは。裸見られたくらいで何絶望してやがる。」
「…絶望しますよ!!私は…!う、宇髄さんしか知らないから…!宇髄さん以外に見せたことないんです…!!」
「…は?」
この女、こんな外見して意外にもその男以外を知らないときた。
そうなりゃ、何となくその男の気持ちもわからんでもない。
自分が見つけて、自分で育てて、大事に大事に愛してきた女を他の男に見せることすら嫌なのだろう。
「…それなら、さっさと服を着ろ。此方を向いていてやるから脱衣場へ入ったら声をかけろ。」
ズズッと鼻を啜る音が聴こえたかと思うと「ありがとうございます…」と礼を言ってきたその女。
変な女だ。
急に純情ぶったかと思ったら本当の純情女だったとは。
先ほどまでの行いはこの女がただ天然物の馬鹿だと言うだけで決して痴女なわけではないということだけはよく分かった。