第26章 君の居ない時間※
「本当に申し訳ありませんでした…!!」
「い、いいんですよ!よくお休みになられたなら幸いです…。この先が刀鍛冶の里ですが、我々も感染予防のため此処から先は行けませんので…よろしくお願いします。」
「もちろんです!気をつけてお帰りください。手洗いうがいをしっかりしてくださいね?」
ひたすら誤り倒すこと五分。
正宗達に白い目で見られながら隠の人たちを見送ると痛い視線を背中に受けながら目指すのは刀鍛冶の里。
此処から先は気をつけなければ…と口を覆っていた手拭いを再度確認して、手には手袋を付ける。
そして後ろをチラッと見ればいつもの三人がまだジト目でこちらを見つめていた。
「…な、何よ。」
「いえ、別に。よくもまぁ…この状況で寝言を言いながら熟睡できるものですね。図太い神経で羨ましいです。」
「な?!ね、寝言?!え、う、うそだよね?!」
隠の人の背中で呑気に寝たことだって許し難いのにその上、寝言までかましていたなんて緊張感がなさすぎるし、こんな女に任せていいのだろうかと絶対に不安に思っていたはずだ。
「『えへへ、天元、すきー。』」
「『やだー、五十個たべるー。』」
「ああ。あと!『天元、抱っこしてー?』でしたかね。後ろにいたこちらが赤っ恥です。勘弁してくださいよ。」
正宗達が冷たい視線を向けてくる…と言うことは少なくともそれは本当のことで、私はずっと彼らに宇髄さんとの惚気を聞かせていたことになる。
今、私はものすごいめまいに襲われている。あれ?まさかスペイン風邪移った?と思うほどに。
しかし、これが単なる現実逃避によるものだと言うことくらい分かると言うもので、後ろからの痛い視線を背中で受けながらもトボトボと歩いて行く。
「…めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど…。」
「いや、こっちの台詞ですよ。」
「宇髄さんに知られたら恥ずか死ぬ。というか怒られる?!」
「いや、宇髄様くらいしか喜びませんよ。そんな内容。他の人が聞いたらドン引きですよ。ドン引き。」
悲しいかな、元護衛にボコボコになるまで罵られながら向かった刀鍛冶の里。
着いた頃には私の精神力がボロボロだったのは言うまでもない。