第26章 君の居ない時間※
余裕の無い表情でこちらを見ている宇髄さんが片手で私の首の後ろに手を入れると徐に抱き上げた。
いや、凄い腕力だなぁ…と感心する暇もなく耳元で呟かれた言葉に目を見開いた。
「…絶対ェに別れねぇからな。」
「……はい?」
いつも私の僅かな変化も気付いてくれる宇髄さんに舌を巻くが、今回もまさしくそれで抱きしめられながら頭を撫でた。
「何でそんなこと言うの?別れないよ?」
「わかんねぇけど…虫の知らせ…?」
「当てにならないなぁ。それは…。永遠の別れでもあるまいし。ちゃんと帰ってくるよ。約束する。」
「…その約束が一番当てにならねぇよ。お前の抱え込む癖が変なところで出ないか心配なんだわ。」
顔は分からない。
抱き締められながら耳元で囁かれ続ける言葉が愛に溢れている。どんどん彼の愛で満たされていくのに何処かで穴が開いてるように少しずつこぼれ落ちて行く感覚にも陥る。
宇髄さんは悪くないんだ。
私があまりのたくさんの愛を与えられ過ぎて勝手に不安になっただけの話。自分じゃ役不足な気がして。自分ばかりが幸せになっている気がして。誰かの不幸の上に成り立った幸せな気がして。
心から喜べないと勝手に思ってしまっただけ。
私だって別れるつもりなんてない。
ただ彼が心変わりしたらそれに従うつもりなだけのこと。
でも、そんな小さな心の変化も彼は気付いてしまうから。
隠し通さなければ逆に傷つけてしまうと思い、心に叱咤激励をした。
傷つけるのは本意じゃない。
「ねぇ、花火大会は一緒に行けるかな?行きたいなぁ。私、花火一緒に見るの楽しみにしてたんだよ?」
「あー…そうだな。一緒に見ような?」
「うん!折角浴衣買ってもらったのに。変なこと言わないでよ〜。それ着て連れて行ってくれるって約束したじゃん。」
すると、やっと体を降ろしてくれて彼の表情を窺い知ることができた。
しかしそれはお互いのようで、彼も私の顔をじーっと見つめている。まるで本心を探るかのように。
「なぁに?まだ疑ってるの?私はどこにも行かないし。ちゃんと帰ってくるよ。天元こそ…浮気しないでよ?」
「俺がするわけねぇだろ。お前のことが好き過ぎて瀕死もいいとこなんだぞ。」
間髪入れずにそう言ってくれる彼が本当に愛おしい。こんなに愛されていることに感謝しかないのだ。