第4章 病魔 前編
「主様、ルカスさんとナックくん、
それから僭越ながら私が同行いたしますので、どうか御安心なさってください」
「そうだね、………ありがとう」
微笑んで、彼の手にみずからのそれを委ねる。
包み込まれていく彼の手の温かさに、どこか懐かしさを感じた。
(っ………私、)
みずからの思考にとまどう。
知らず引き抜こうとしたその仕草を許さず、優しい手付きで手をさすりはじめた。
彼らを信じたい。………信じてみたい。その思考に偽りなどない。
………けれど。
(私は、まだ何処かで恐れているの)
忘れもしない、否———忘れてはならない記憶。
あの日の再来のように、すべてを喪う日を。
………と。かすかな震えに気づいたベリアンが、その指を伸ばしてくる。
大きく温かな手が、一瞬だけその頬を包み———。
「………!」
愛おしそうに、額へ口付ける。
一杯いっぱいに瞠目する瞳に、羞恥と戸惑いを映して。
「ベリアン……!?」
みずからの唇から、うろたえた声が零れ落ちる。
そんな彼女の唇にそっと指を置いた。
「一度だけです……主様」
ふふ。真っ赤になったおもてに微笑みかけるそのさまに、
滲んだのはわずかな悔しさ。
「……ずるい」
拗ねた調子でつぶやく。
そんな彼女に、ベリアンは「すみません」と胸に手を置いた。