第4章 病魔 前編
「主様」
ふいに呼びかけられ彼のほうを見る。
そしてかち合ったのは、いつになく真剣な瞳。
「私達は、いついかなる時でも、貴女の支えであり続けます。
それだけは忘れないでください」
「うん」
指を伸ばす。さら……と白磁の髪にふれると、彼は瞠目した。
「っ………主様っ?」
戸惑いにすこしばかり上擦った声。
朱を散らしたおもてにくすりと微笑んで、ヴァリスは唇をひらいた。
「私……もらってばかりだね」
これまで様々なものを———大切なあらゆるものを喪ってきた。
宝物のように想っていたモノたちは、皆儚くも美しく、この手から零れ落ちていった。
無垢で残酷な、身を切り裂く痛みをともなって。
(正直戸惑っているの)
奪われることには慣れていた。痛みを抑えつけて微笑うことにも。
だからこそ、その逆はどうしていいかわからない。
かけられる気遣い、与えられる温もりや優しい感情———。
「主様………、」
唇をひらきかけたベリアンを、微笑いかけることで覆う。
みずからが心からの微笑を浮かべていることを、
思考の端で自覚しながら、再度唇をひらいた。