• テキストサイズ

焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第4章 病魔 前編


しばらくして。

彼女の部屋を辞したベリアンは、一人地下1階へと続く階段を降りていた。



(主様……。)

先程、彼女が口にした言葉が、胸のなかで混沌と化して渦巻いている。



『マリスはまだ見つからないの?』

この世界のことを語ったのち、彼女はそう訊ねてきた。



『はい、私やナックくん、

他にも数名の執事が街や森を探しておりますが、芳しくは………、』

不安と心細さにゆれる瞳に、安心させるように微笑みかける。



『主様。マリス殿のことは、私達が必ず見つけ出しますから、

そのようなお顔をなさらないでください』



『お願い……きっとよ』

そう言って見上げる瞳に、心にわずかな棘が宿った。



『マリス殿のこと……心から大切なのですね』

そうつぶやいた途端、そのおもてを彩ったのは自嘲の笑み。



『……私が大切に思っても許されるのはマリスだけだから』

哀しみに瞳を翳らせて、その唇を歪ませる。


深く淀むその双眸は、

ベリアンではなく遠い、彼女には手の届かないなにかを視ているようで………。



『主様……?』

けれどそれは一瞬で、すぐに常の表情に戻って。

どうしたのかと問う隙さえ与えられず、胸のなかの混沌だけが膨れ上がった。



『何でもないの。………気にしないで』

そう呟いて、微笑って見せたのだった。
/ 143ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp