第3章 捻れた現実
「ある——」
その声をかき消すように、カタン、と馬車が止まる。
「着いたみたいだね。いこう……ふたりとも」
そう言って、花のように微笑う。
その表情をみて、これ以上の詮索は野暮だと悟った。
「はい」
馬車から降りるのに手を貸しながら、
周囲の人々の視線から守るように、華奢なその身を隠す。
「おい、あの女って……。」
「あぁ、奴らの『主様』だ………。」
ひそ、ひそ、………ひそ、ひそ。
街の人々の囁きは、彼女の耳にも届いていた。
「こんにちは、いい天気ですね」
その声さえも覆うように、微笑いかける。
その表情に、さざめくような声がピタリと止んだ。
(……主様って、結構したたかな御人なんすね)
「主様、いきたい所はないっすか?」
悪戯に笑いかけると、その瞳が好奇心に煌めく。
「貴方たちの好きな店をみて回りたいかな」
心から口にした言葉は予測できなかったようで、ぱちりと瞬く瞳。
………そして、やや遅れて朱を散らした。
「主様、そんなんでいいんすか?」
少しぎこちない笑みのまま、そう問いかける。
そんなアモンに、彼女は笑みを深めた。
「うん、貴方たちを知りたいの。だから……つれていって」
そう言って、包み込んでいく掌。
微笑を描く唇に、心からそう願っているのだと悟った。
「了解っす。じゃあ……ラムリ、」
「うん! まずはボクがご案内しますね!」
キラキラと瞳を煌めかせて、そっと手を引く彼。
そのさまに微笑みながら、足音を進めた。