第3章 捻れた現実
「お眠りなさい 無垢なるままで
月の加護を その身に宿せば
千の夜を越え 浄われていく
お生きなさい 強く気高く
星の檻を 腕に抱けば
黒き想いは 霧散するだろう
あなたは運命、あなたは定め
陽の祝福を 賜る彼女は
永遠の名のもとに 紡ぎ手となるでしょう」
余韻を残し消えゆく歌声。繙くは温かな感情か。それとも。
(いいえ……駄目よ、ヴァリス)
想いを解いたその先を危惧して、みずからに説き伏せる。
(私は、あの日々を憎んではいけないの)
憎むということは、
父さんを——身を呈して守ってくれた母さんの献身を否定することなんだよ?
軋む胸の内を散らして、瞳を伏せる。
それでも、みずからをみつめる父の眼が、
貼り付いたように笑いかける母のおもてが、未だ脳裏で映し出されていて………。