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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第3章 捻れた現実


コツ、コツ……とふたたび響く足音。彼女を連れて廊下を進んだ。



「主様、足元にお気をつけください」

階段を上がるのに手を貸すベリアン。

重ねたてのひらは柔く温かで、そして折れそうに小さかった。



「ありがとう」

そっと微笑む彼女。そして2階へと上がると、かすかに耳をかすめたのは。



かん、かん、………きんっ。それは、刃同士がぶつかる高い音だった。




その音がもれる扉を控えめに叩く。




「今、主様を屋敷内の各部屋へご案内しているのです。入っても宜しいでしょうか?」



「どうぞ」



「失礼いたします」

静かな靴の音が室内へと進む。

彼をともなって入ってきたのは、稀有なる彩色(いろ)をもつ少女だった。



白銀と薄水青が混ざりあったような、美しい色の髪。

大きな深青の瞳は知性の煌めきを宿し、

唇は紅い血汐を透かして、水紅(とき)色に艶めいていた。



「主様……!」

トレーニングウェアをまくり、汗を拭っていたハウレスが慌てて正す。

ちらりと見えた筋肉質な腹に、彼女は頬に朱を散らした。




トレーニング室で鍛錬していたのはラトとハウレスだった。




彼女をみて、わずかに瞳をゆらめかせる。
セレスティンに淀んだ瞳は、彼女だけをとらえていた。



「どうしたの?」
穏やかにみつめる瞳に笑みを返す。



「貴女は、私が怖くないのですね」



「ラト!」

鋭い声で名を呼んだのはハウレスだった。

「構わないから」と手で制しながら唇をひらく。



「うん……怖くないよ」

それは心からのものだった。その反応は予想外らしく、三組の瞳がわずかに揺れる。



「私……ね、どんな人でも外見だけで判断しないことにしているの。

だから怖くないよ」


その笑顔には、本当に畏怖や警戒心といった類はなくて。

温かさが染み込んだ胸の内を訝しみながら、彼女のほうへと手を伸ばした。



「ミヤジ先生の言っていた通りの方ですね、貴女は………。」

微笑んだラトは、さらりとした髪を指先に絡める。

ほのかな匂いのする髪をもてあそんでいると、ハウレスがふたりを引き離した。
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