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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第2章 主人として


(私は………、)

こちらを見上げる瞳は柔く清らで、嫉妬していたみずからを心から恥じた。




高鳴る心臓をよそに、胸の中で説き伏せる。




(私は、あくまで主様にお仕えする身。

それ以上の感情を抱くべきではないのですよ)

そんな彼らの傍らで、花のように微笑むヴァリス。



「……ありがとう」

心からの微笑に、ふたりの胸も温まる。笑みを返すと彼女の瞳がさらに解けた。



(こんなに温かな感情が、まだ私のなかにあったなんて)

春の陽光が差したように、かけがえのない温かさが、その胸を満たしていく。



(すべてを忘れて幸せになるなんて、許される筈がないけれど……。)

こんな私を労わって、励まして、………寄り添って。



主人として、彼らを大切にしよう。

………どんな事が遭っても、彼らとともにいよう。

心のなかでそう決意する。



恥ずかしいような面映ゆいような、嬉しいような心地が、

ヴァリスの全身を駆け巡る。


こんな気持ちになったのは、母といたあの日以来だった。



(やっと、微笑ってくださいましたね)

彼女の笑顔をみつめ、その瞳が優しいひかりを帯びる。

その身に抱えるものがどれ程のものか、いまは未だ知るすべはない。



………けれど。



(貴女が微笑っている。ただそれだけで、私は充分すぎる程に幸せなのです)



じわり、じわじわ。

ゆっくりと、ベリアンの内に、温かさが染み込んでいく。



それは、傷つき、ひび割れていた心に、感情という名の熱が灯るように。



微笑みを携えて、片手を差し出す。



「主様、こちらへ。………残りのお部屋もご案内いたします」



「うんっ」
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