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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第2章 主人として


(私は——、)
彼女をみつめたまま、唇をひらきかけた時。



「……主様」

すっ……と前方に影を落とす。視線を上げると、気遣わしげな瞳をしたナックが。



「どうしたの?」

瞬時に穏やかな笑みを作り、彼をみつめる。

と同時につい先刻までの切なげな空気は、一瞬にして消え去った。




穏やかにみつめてくる瞳に、彼は呟く。




「貴女は、ここにいるのですよ」



「!」

みひらく瞳に微笑んで、その手を取った。

大きく温かな手に包まれ、切なさの染みが霧散していく。




跪くと、たおやかなその手の甲に口付ける。




「貴女が時を忘れるほどに、私は、貴女とともに在りましょう」

膝を折ったまま、彼女を見上げて微笑んだ。




温かく、優しい眼差しに涙があふれた。




「! 主様」
ぽろぽろと頬を伝う雫に、すこしばかり焦ったように立ち上がる。



「ナックくん……主様を傷つけてはいけません」

そっと咎めるベリアン。それでわずかに滲む棘が、彼の胸を刺す。




そしてやや急いた様子で、ハンカチを差し出してきた。




「申し訳ございません、主様。

貴女を泣かせるつもりはなかったのです」



「ち、違うの、ふたりとも……。」

すぅ……吐息を吸い、温かさのしみた心臓を抑える。



「嬉しいの……。今までそう言ってもらえたこと、なかったから………。」

ぐっと目元を拭い、その唇が笑みを描いた。
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