第1章 はじまりの夜
(笑っているのに、………でも……なんだか、)
仮面のように擬似的な笑みだと、なぜかそう強く感じて、唇をひらきかける。
「っ………私、」
「——ルカス」
諌めるように、冷たく咎めるように。
月光美人の植木の影から現れたその人に、ルカスは笑いかけた。
「ミヤジ……珍しいね、キミがこの時間まで起きているなんて」
腰に紺のスカーフを巻いた白のパンツに黒曜のシャツ、
襟とテイル部分に朱と水色と黄の東洋風のマーブル模様のあしらわれた
茉白のジャケットを合わせている。
純白の髪を三つ編みと編み込んで黒のリボンで結び、
その両の目を少しだけ厳しい警戒のいろに染め上げている。
褐色の顔の半分に成されたツギハギの黒っぽい肌に、ヴァリスは目をみはった。
「主様は、私がお部屋までお送りしよう」
彼の問いかけを無としてフローライトの瞳が彼女をみつめ、
黒曜の手袋に包まれた指が彼女のそれをつかんだ。
「!」
けれどその勢いに反して、その手に込められた力は柔らかく、
宙を舞う一枚の羽に指を伸ばすような優しいもので、それだけに振り払えなかった。
彼の手に導かれながら、肩ごしに振り返る。
「ご、ごめんなさいルカス、また今度誘ってっ」
苦笑と申し訳なさが滲むおもてをみせる。彼はにっこりと微笑んで手を振った。
「大丈夫ですよ、主様。おやすみなさいませ」
ふたつの音が屋敷のなかへと消えていく。