第1章 はじまりの夜
「っ………。」
ひと時の幻から解放されたヴァリスは、ゆっくりと瞼をひらいた。
夢の残影を残す目元に手をやると、真新しい涙が頬を伝っていった。
慌てて目頭をこすりその雫を拭う。
「懐かしい夢……。」
みずからが発した声が、夜闇に溶け込み消えていく。
寝台の上に横座りして、長靴に足を収める。
そして窓辺へと近づいた。
カーテンをめくると、空は完全に黒曜に染まっている。
………真夜中が近いのだろう。
ベットサイドテーブルに置かれた呼び鈴に指を伸ばしかけ、そしてふと思い留まる。
(きっと皆眠っているよね、)
目が覚めたからといっても、今は深夜なのだ。
自分ひとりの我儘で彼らを呼び出すなんて迷惑に決まっている。
そう結論付けて、静かに部屋を抜け出した。