• テキストサイズ

焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第1章 はじまりの夜


そのさまに唇を笑みに染めているボスキに、ベリアンは唇をひらく。



「そうです。ボスキくん、主様のほかに猫はいなかったのですか」



「猫?」

えぇ、と頷く。



「主様の愛猫です。黒猫で……恐らく主様とともにこちらの世界へ」



「俺は主様しか見ていないが、そういや……、」



「なにか遭ったのですか」



「主様を抱いて馬に乗った時、光る眼がこちらを見てましたよ」



『さすがに暗すぎて、猫かどうかまでは確認できなかったが』。

ガシガシと頭を掻きながら呟く。ベリアンは顎に指をあてた。



「恐らくそれが主様の愛猫でしょう。夜が明けたら森のなかを捜索しましょうか」

靴の音を忍ばせて窓辺へと近づく。

カーテンをめくると、空は半ば黒曜に呑まれかけていた。



(美しい三日月が浮かんでいますね)

その姿の半ば以上を陰に呑み込まれた——されども陽を凌ぐほど煌めく三日月が空を統べる。

その周囲をかすかに輝く星々が彩り、彼女の来訪を祝福していた。



「ベリアンさん?」

その声に彼のほうを振り返る。問うような眼差しにベリアンは微笑んで見せた。



「何でもありません。

それより……ボスキくん。貴方はもうお休みになられては?」

眠たげにゆらめく眼をみつめれば、「そうだな」と欠伸をかみ殺す。



「あんたも無理をするなよ、ベリアンさん」

密やかな長靴の音が次第に遠ざかっていく。

ベリアンは窓辺から離れ彼女のほうへと歩み寄った。
/ 143ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp