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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第6章 惑いの往く末 前編


下へ、………下へ、………下へ……。

暗い井戸の底へ落ちていくような、奇妙な感覚に翻弄された。



そっと瞼をひらいた視界に映ったのは、見たことのない寝台の天蓋だった。

純白の漆喰の木組み。



(「見たことのない」……?)

ヴァリスはゆっくりと半身を起こした。



デビルズパレスの自室にも劣るとも勝らない、上質な寝具を用いたふかふかの寝台。

彼女は茉白の漆喰の木組みが優美な、白いレースカーテンの天蓋付きの寝台に寝かされていた。



黒地に星々を散りばめたような、光の加減できらきらと煌めく壁紙。

黒と白のアーガイル模様の毛足の長い絨毯。



白い漆喰のテーブルと椅子、茉白のチェストにドレッサー、

白い絹張りの長椅子とクッション、部屋の隅に置かれた猫足のバスタブ。



純白で統一された、まるで高貴な身分の王女が住まうような、絢爛豪華な調度品で整えられた一室。


「ここは、どこ?」


ぼんやりとしたまま寝台から降り立ち、壁面に飾られた大きな姿見へと歩み寄る。



「………!?」

そして、一瞬にして意識が覚醒した。



そこに映るのは、見慣れた青灰色の髪に青い瞳を持つ自分ではなく………。

白梅鼠色の髪に絹鼠色の瞳を持ち真っ白な肌をした、まるでアルビノの少女だったからだ。



「なんで、………なんでっ、私………っ!」

姿見の額縁に施された、月と星の透かし細工の装飾に手をついて、今の自分の姿を凝視する。



どうして、髪と瞳の色が変貌っているの……?

混沌に呑まれた思考を必死に巡らせ、そして気づく。



「この色の組み合わせは………。」

天使。今の私は天使にそっくりなのだ。



「でも、………でも、天使は同じことしか喋れない筈なのに………。」

コツ、コツ、………コツ。靴の音が近づいてきて、扉がひらく。

現れたのは見知らぬ男だった。



「あぁ、良かった。

少々強引にこちらへとお呼びしたから、もう目覚めないと思っていたよ」

現れたそのひとは、にこにことした笑みを貼り付けながらこちらへと歩み寄ってくる。
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