第5章 惑いの往く末【P177 ~ 🌹* not 最終行為】
彼女達が屋敷へと帰る頃には、
時刻は午後九時頃———空を染め上げていた夕陽は藍へと完全に呑み込まれていた。
「皆、ただいま」
ベリアンにつれられて、ラト、ルカス、ラムリのいる主の寝室へと
足を踏み入れた彼女の元へ、ラムリが駆け寄ってくる。
「主様……!」
大きなグリーントルマリンの瞳に安堵の感情の色を映して、ぎゅっと抱き寄せられる。
「よかったぁ……!
ボク、主様が屋敷のどこにもいないって聞いて、死ぬほど心配したんですよ………!?」
その腕にどんどん力が込められて、息もつけぬ程に強く抱きしめられる。
「ご、ごめんなさい。
もう勝手に出ていかないから、」
息苦しさを感じながらも、その背に指をかける。
密着した身体から、急く生者の証が伝う。
それだけで、彼がどれ程自分を案じていたのを痛いほど悟り、心臓を包み込む軋みと温もり。
(私なんかのことを、本気で心配してくれたんだ)
温もりが滲んでいく胸の内の感覚を、本来ならば抑え込まなければいけないのに、
何故だかそうすることはできなかった。
すん、と頭上で聴こえる音に、背にかけていた指を解いて頭を撫でる。
すると、嬉しそうに煌めく瞳が優しく瞬いた。
「えへへ………主様、頭を撫でてくれるんですね」
そう言って妙に大人びた顔付きて微笑みかけられ、
我に返った私は「ご、ごめんなさい」と慌てて指を引っ込める。
「大好きです、主様!」
ガバッ、と勢いよく抱きつかれ、バランスを崩した私は彼もろとも床に倒れ込む。
「ラムリくん。主様が困っておいでだよ」
私に指を差し伸べて、立ち上がるために手を貸しながらルカスが口にする。
「いいよ、ルカス」と慌てて手を振ると、その琥珀色の瞳が冷たく光った気がした。