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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第6章 惑いの往く末 前編


意を決して、その舌に歯を立てようとした、その刹那だった。



「主様!」

突如として響いた声とともに半ば強制的に唇が解かれ、温もりが離れていく。

力づくで二人を引き離すと、彼女を庇うように片腕を広げるベリアン。

それと同時に、いくつもの足音が近づいてくる。



「大丈夫ですか、主様?」

やや遅れて姿をみせたルカスに無理に笑みを作る。



「平気よ」

未だ恐怖に支配されつつも、彼らを安心させるように微笑みかけた。

彼女を取り囲むように立ち塞がり、マリスにその刃の切っ先を向ける。



ブンッ!とベリアンの手にした双槍での警告の一閃を、

凪いだ風のようにかわすと、じわじわとその口角が上がった。



「っく………あははははっ……!」

何度も突き立てようと振りかざすさまをしなやかに避けながら、狂ったように高笑う。

その姿に皆の眼の色が変貌る。けれどそれは彼女も同じだった。



「……何が可笑しいのですか」

その喉元に刃を向けながらラトが口にする。



嘲るように、心から軽蔑しているように。

夜の森にこだまするのは警戒をはらんだ彼らの息遣いと、変わらず嗤い続けるマリスの声だけだった。



彼はぴたっと笑い声を止めると、その瞳でヴァリスを見据える。

魅入られそうに淀んだ色の紅玉の瞳は、

透えぬ鎖で彼女を引き摺り込んでいくような、濁った感情を映していた。



「……ヴァリス様」

それから彼女の名を呼ぶ。



「『あなたのお母上ならばこちら側にいる』」



「!?」

びくりと身を震わせた私に指を伸ばしてくる。

けれどそれは触れる前に、ベリアンによって阻まれた。

そのさまに、彼は再び嘲りを込めて唇をひらく。



「あなたが運命に足掻くさまを、今一度傍観させていただきましょう」

くすくすと笑い声を響かせながら、闇の奥へと消えていく。



「………っ」

ふら、と足元から崩れかけたヴァリスをルカスが抱き留める。



「主様……!」

自分を呼ぶ声が遠くなり、彼女は意識を混濁へと手放した。
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