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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第6章 惑いの往く末 前編


今の彼女と同じ、白梅鼠色の髪を持ち絹鼠色の瞳をした男だった。



髪を襟元に届く程度の長さに伸ばし、

茉白の羽根を前髪両サイドの髪に二本ずつ、ヘアアクセサリーのように絡ませている。



大きな白のリボンタイのついた黒曜のシャツに、

肩に金色のエポーレット(肩に施された金色の房飾り)と、

アグレット(胸の金色の飾り紐)の施された純白いジャケットを合わせている。



その前身頃にはタロットカードのラバーズ(恋人)のカードに描かれているような、

金色の放射状模様の刺繍が入れられており、


またその右肩には宵に浮かぶ星模様の漆黒のショルダーマントが垂れ下がり、

その裾に縫い付けられた黒いフリルが窓から吹き付ける風に揺れていた。



その背には純白の翼があり、その種族を一瞬にして理解する。



「あなた………誰?」

怯えに身を強張らせながら呟くと、彼は口角を吊り上げた。



「おやおや、………私がわからないと?」

くすくすと嗤いながら指を伸ばしてくる。

恐れのあまりぎゅっと瞳を封じてしまう私をみて、黒曜の手袋に包まれた指がピタリと止まる。



「まさか………本当に私を覚えていないのかい?」

こっくりする私をみて再度その指が伸ばされ………。



「………!?」

顎をつかまれ瞳をのぞき込まれる。

瞠目したまま目を逸らせない私に微笑んで、その唇をひらいた。



「まぁいい。あなたがお目醒めであろうとなかろうと、思考を掻き乱すのが私の目的だからね」

手袋に包まれた指が私の目元を覆い、ぼそぼそと何かを囁かれる。



「今日はここまで。………またあなたにお会いする日を、楽しみにしているよ」

混濁に呑み込まれていく意識。

深い沼に足元からゆっくりと沈み込んでいくような、重く冷たい眠気。



ぱたり。自分が倒れた音が、何処か遠くで聞こえた。
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