第6章 惑いの往く末 前編
「ルカスさん、主様に触れないでください」
棘の宿る眼差しで彼を見やりながら、その指が私を守るように抱きしめた。
「っ………。」
少年のように細身な彼の胸に囲い込まれて、
仄かに冷たたささえ感じるその体温をじかに感じ取り、顔が沸騰しそうな程に熱くなる。
「ら、ラト………ッ」
ぼんっ、と爆ぜそうな程の恥じらいを感じ、その胸のなかから逃れようと身動ぐ。
細身に見えどもその腕の力は強く、彼もまた男なのだと知らしめるよう。
(って……私……、何を考えているの………っ)
じたばたと抗っていると、不思議そうな瞳が私をみつめる。
「あれあれ? 主様の頬、紅くなっていません?」
「熱でもおありなのですか?」と、こつん、と額をくっつけられ、
益々紅くなってしまう私を見下ろして、愉しげにその双眸が解けた。
「面白いですねぇ、………真っ白な肌がますます紅くなりましたよ」
くすくすと微笑いながら、その指が頬をなぞる。
儚く尊いものに触れるかのような、柔らかく優しい手付きに身を固くしていると。
「ラトっち……!」
ラムリの指が伸びてきて、そっと二人を引き離す。
そのまま今度は彼の腕のなかへと囚われ、グリーントルマリンの瞳が私を見下ろす。
「主様も、嫌なら嫌って言わないと駄目ですからね?」
そう言って、ほんの少し咎めるような眼でみつめてくる。
仄かに自分より高い彼の体温をじかに感じ、頬の熱が引かない。
「あ、あのね………っ」
頬を熱を持て余したまま、唇をひらきかけた時。
カタン、と馬車が停り、御者台のベリアンが告げる。
「主様、御到着でございます」
その声にそっとラムリの胸を押し、解放を促す。
窓の外から止めどなく聴こえる悲鳴に、ぎゅっと胸にあてた指を握りしめた。