第6章 惑いの往く末 前編
「み、みんな……?」
にこにこと無邪気に微笑うラトと、そんな彼の視線から隠すように立ち塞がって、
揃ってラトを少しだけ睨む二人に、おろおろと視線をさ迷わせる。
「あのね………っ、」
三人の間に割り込んで、唇をひらきかけた時。
ヴーーーッ! ヴーーーッ………!!
場の空気を凍てつかせる、忌まわしき警報音。
と同時に、四人の表情に警戒のいろが宿りはじめた。
「この警報音って………、」
見上げた視線の先でベリアンが頷く。
「えぇ、天使の襲来です」
各々の武器を手に、てきぱきとした所作で彼らが動き出す。
ばたばたと慌ただしく廊下を往き交う靴の音が、張り詰めていく心を締め上げた。
「さぁ、………参りましょう」
差し出された掌にみずからの指を重ねる。
「うん」
◆◇◆◇◆◇
かた、かた、と揺れる車輪。
急いで着替えを済ませ慌ただしく馬車に乗り込んだ私は、その揺れに身を任せる。
(どうか、街への被害が最小限で済みますように)
胸のなかで祈りを捧げていると、ぽん、と茉白の手袋に包まれた掌が頭に乗せられる。
そのまま幼子にするように優しく頭を撫でられ、驚いて彼を見やる。
「る、ルカス………ッ?」
みつめる瞳の先で、薄い唇が弧を描く。
何処か気遣うように優しい琥珀色の瞳が私を映していて、彼は唇をひらいた。
「御不安ですか?」
こっくりすると、再度指が伸びてくる。
ぐいっ………と私の頭を引き寄せて、額に柔らかなものが押し当てられた。
それが彼の唇だと理解する頃には、頬に朱がのぼっていく。
みるみる真っ赤になった私に優しく微笑んで、彼は片目を瞑って見せた。
「不安の和らぐおまじないです」
ふふ。瞠目する眦に指が這わされる。
言葉もなく彼をみつめていると、その指がラトによって払われた。