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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第6章 惑いの往く末 前編


「そうだね。私が大切に思っても許されるのはマリスだけだもの」

いつだって優しく寄り添ってくれた彼の温もりと、

ふわりと艶のある黒曜の毛並みを思い描いていると、自然と唇が笑みを描く。



優しい煌めきを映す瞳に、柔らかく綻んだ花のような微笑を湛えた唇。



その表情をみたラトの眼の色が変貌る。



「ラト………ッ?」

ガッ、と手首をつかまれて、彼のほうへと引き寄せられる。

その指の力はあまりに強く、ギリギリと骨が軋むような感覚に思わず彼を見上げた。



「い、痛い………っ! 突然どうし……んんっ!」

涙声の悲鳴に構わず重なった唇。

ぐっと手首と腰をつかまれて、密着した身体から早鐘のような生者の証が伝う。



(どうして、そんなに怒っているの……?)

冷たい指に触れられている感触と、

唇を吸われるその情熱に少しだけ戦いてしまいながら、

彼の腕のなかに囚われていると、突然その指が離れていく。



「ラトくん、主様に何を……!」

二人を引き離したルカスが私の前に立つ。

少しばかり咎めるような眼でラトをみつめる彼に、薄い唇が弧を描いた。



「何だか……、不愉快でしたので」



「不愉快?」

ルカスの片眉が僅かに上がる。

その視線の先で、微笑みがさらに深まった。



「マリスさんのことを話す主様をみていたら、何だかとても面白くなく感じたのです」

くふふ。無邪気さと棘が同居する微笑。

そんな彼をみて、ベリアンも私を彼の視線から隠すように立ち塞がる。



「ラトくん………、」

揃ってラトに少しだけ厳しい視線を向ける二人に、彼は再度唇をひらく。



「くふふ、………そんなに怖い眼で睨まないでください」

あながち反省をしていないような様子で微笑むと、より二人の視線が厳しくなる。
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